日本リスク学会長 岸本 充生
2024年度日本リスク学会 学会賞、奨励賞、グッドプラクティス賞を以下のように決定しましたのでお知らせします。 学会員からの推薦に基づき、表彰委員会での厳正な審査により選考されました。 静岡県立大学で開催される第37回日本リスク学会年次大会の1日目(2024年11月16日)に表彰式を執り行います。受賞者による受賞講演も行われます。
【日本リスク学会 学会賞】
近本 一彦(日本エヌ・ユー・エス株式会社 代表取締役社長)
選考理由:近本一彦氏は、実務家の立場から原子力施設や医療施設に係る放射線、送変電設備に係る電磁界を中心とするリスク評価や管理に関わる活動に携わり、リスク学の社会実装に貢献されてきた。このことはリスク学の社会実装としての実務における顕著な業績と言える。また、本学会においては、第5期から第18期(28年間)の長きにわたり役員として学会活動に関わり、本学会の研究領域が学際的かつ分野横断的なものとなるように尽力してこられた。リスク学の社会実装を本学会が目的に掲げる以前から実務分野で活躍してこられ、科学的な事実や海外の事例に基づいた信頼の醸成に繋げるリスクコミュニケーションのあり方を本学会創設期において模索され、本学会で学術的な議論を重ねる土台を構築された。 以上より、実務としての実績及び学会活動において、特に顕著な業績があると認められるため、学会賞に相応しいと考える。
【日本リスク学会 奨励賞】
小林 智之(福島県立医科大学 医学部 助教)
選考理由:小林智之氏は、社会心理学を専門とし、福島県における災害復興を対象とした研究活動に取り組まれている。その成果の一部は、学術誌(International Journal of Disaster Risk Reduction, Frontiers in Public Healthなど)に掲載されており、復興支援およびリスク学の発展に貢献していると言える。公衆衛生分野との学際的なアプローチに取り組まれている点も特筆すべき点である。加えて、本学会の年次大会における企画セッションの企画および参加、レギュラトリーサイエンスTG活動への参加等、学会活動の活性化にも貢献している。なお、これまでの「リスク学研究」への掲載は企画セッションの報告記事に限られているため、今後、学術論文の掲載にも期待する。 以上より、今後一層の発展が期待される優秀な研究業績を挙げていると認められるため、奨励賞に相応しいと考える。
【日本リスク学会 グッドプラクティス賞】(推薦書到着順)
一般社団法人日本モバイル建築協会
代表:長坂 俊成(日本モバイル建築協会 代表理事)
活動名:「災害レジリエンスの向上に資する本設移行可能なモバイル建築を利用した応急仮設住宅」
選考理由:令和6年能登半島地震発災直後に恒久仕様のモバイル建築(一般住宅と同等以上の安全性と性能を有する移動式木造住宅)をオフサイト製造するテンポラリーなサプライチェーンを構築し、被災地に仮設で終わるのではなく本設移行も可能な応急仮設住宅を供給し建設した。社会的に余剰なリソースを使える形でストックしておき、災害時に活用するためのシステムを形成されたことは、レジリエンスを向上させるアプローチとして高く評価される。加えて、モバイル建築の本設移行を目指し、復旧・復興プロセスにおける被災者の住まいの問題に対する精力的な取り組みは注目に値する。今後、本活動により避難所生活による健康被害や災害関連死等に改善がみられることを実証する取組などをリスク学の観点から強く期待する。以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。
兵庫県加古川市石綿飛散事案対策委員会
代表:名取雄司(委員長:NPO法人中皮腫・じん肺・アスベストセンター 理事長)、
村山武彦(副委員長:東京工業大学 教授)
活動名:「加古川市における石綿飛散事案に対するリスク推定と今後の対応策に対する取り組み」
選考理由:本事例では、学校教育施設の改修工事で生じた可能性があるアスベスト飛散によるリスクを推定するため、関連文献の収集、実際のアスベスト建材を用いたチャンバー内の飛散実験、トレーサーガスを用いた校舎内外の拡散実験等を通じて、リスクの推定が行われている。そのリスク評価結果は、リスクコミュニケーションの場において、不確実性を考慮した上で活用されており、不安などへ対応するための体制づくりも含めて、丁寧かつ適切なリスクコミュニケーションがなされていた。また、一連の調査を報告書に取りまとめた後も、丁寧なフォローアップを念頭に置いている点も注目に値する。なお、同事例は、名取氏をはじめとするNPO法人中皮腫・じん肺・アスベストセンター、および村山氏が過去のアスベスト飛散事故の事例に対しても取り組んでこられ、リスク評価・管理・コミュニケーションの実装が行われてきた土台に基づいてなされていることに触れておきたい。 以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。
※(2024年11月12日追記)村山武彦氏は日本リスク学会の表彰委員会委員を務めているが、表彰委員会規程に基づき、本賞の審査・選考の過程には関与しなかった。
以上