水. 12月 25th, 2024

    日本リスク学会長 村山 武彦

     2021年度日本リスク学会「学会賞」、「奨励賞」、「グッドプラクティス賞」を以下のように決定しましたのでお知らせします。

     本奨は、学会員からの推薦に基づき、表彰委員会での厳正な審査により選考されました。表彰式つきましては、オンラインで開催される第34回年日本リスク学会次大会の2日目(2021年11月21日(日))16時10分より、執り行います。なお、「学会賞」と「グッドプラクティス賞」については受賞講演が行われます。

    【日本リスク学会 学会賞】
    前田 恭伸 氏(静岡大学 総合科学技術研究科 工学専攻)
    ●選考理由:前田恭伸氏は、第15期学会長を含め、本学会の理事を約20年にわたり務められた。その間、情報管理委員会におけるシステム構築、米国SRAを始めとする海外との交渉や海外研究者との交流など、本学会の諸活動に多大な貢献があった。学術的には、リスクコミュニケーションの情報システムを国内外に先駆けて提案され、著書、学会誌への論文掲載が多数ある。また、地方自治体等でのリスクマネジメントの実践にも尽力されてきた。
     以上より、学会活動及び研究実績において特に顕著な業績があると認められるため、学会賞に相応しいと考える。

    【日本リスク学会 奨励賞】
    竹林 由武 氏(福島県立医科大学 医学部 健康リスクコミュニケーション学講座)
    ●選考理由:竹林由武氏は、臨床心理学を専門とし、コミュニティの自殺予防やリスクコミュニケーションの分野において、活発な研究活動や実践的活動を行っている。とくに東日本大震災後の福島における放射線リスクの問題やCOVID-19の問題に積極的に取り組み、日本リスク学会年次大会での発表や新型コロナウィルス感染症特設サイトでの情報発信を積極的に行ってこられた。
     以上より、今後一層の発展が期待される優秀な研究業績を挙げていると認められるため、奨励賞に相応しいと考える。
    ※日本リスク学会理事の1名は、論文の共著などにより竹林氏と近しい関係性を有するため、表彰委員会規程に基づき、本授与対象者の選考過程や承認過程には加わらなかった。

    【日本リスク学会 グッドプラクティス賞】(4名、推薦書到着順)

    Synodos/福島レポート
    代表 服部 美咲 氏(福島レポート編集長)
    「福島第一原発事故以降の科学的・社会的知見の発信(福島レポート)」
    ●選考理由:福島レポート(https://synodos.jp/fukushima-report/)は、編集長である服部美咲氏のもと、福島第一発電所事故以降に得られた科学的・社会的知見を、様々なリスクの視点から、多岐にわたり、頻度高く、分かりやすく発信してきた。英語による発信もなされていて、海外の方が福島の暮らしと現状を知る重要なソースとなっている。科学的・社会的知見の共有をもって目指すべき社会を問うというジャーナリズムの礎をもって、福島県に住む人々の生活を支え、ウェルビーイングの向上に資するものと言える。なお、2021年6月には、記事を再構成し、新たに書きおろされた内容を追加して「東京電力福島第一原発事故から10年の知見:復興する福島の科学と倫理」(著者:服部美咲)が丸善出版より出版された。
     以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。

    MAss gathering Risk COntrol and Communication (MARCO)
    代表 井元 清哉 氏(東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター)
    「大規模集会(Mass Gathering Event)を対象とした解決志向リスク学の実践」
    ●選考理由:MARCOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、多くの人々が集まる大規模集会におけるリスク制御とコミュニケーションを目的に、多様な専門分野の研究者が集まって組織された有志研究チームである。井元清哉氏(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授)が代表を務めている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会、プロ野球やサッカーといったイベントのスタジアム等において、MARCOメンバー自らが実施する各種計測結果や最新の科学的知見に基づき、感染リスクや感染対策効果の定量的な評価を行ってきた。本活動の成果は、各イベント関係者と随時共有され、感染リスクの把握や感染対策の検討・実装に貢献している。様々なメディアで多数取り上げられ、複数の競技団体から表彰されるなど、社会的に高い評価を得ているとともに、出版された論文は高い評価を得ており、学術的にも価値が高いものであると言える。
     以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。
    ※ MARCOのメンバー又はメンバーと近しい関係性を有する日本リスク学会理事は、表彰委員会規程に基づき、本授与対象者の選考過程や承認過程には加わらなかった。

    畝山 智香子 氏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
    「食品安全に関する長年にわたる継続的な情報発信」
    ●選考理由:畝山智香子氏は、一般の関心が高い食品安全分野において、国際機関や諸外国の公的機関が発信する各種情報を収集し、一部を所属組織のWebサイトにて「食品安全情報」(http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html)として隔週で発行する傍ら、2004年以降、ほぼ毎日、収集した情報をその日のうちに自らのブログ(https://uneyama.hatenablog.com)にアップしてきた。これらは、海外の食品安全に関する情報を関係者や社会がいち早く共有するための基盤としての役割を果たしており、当該分野におけるリスク学の社会実装に大きく貢献している。また、「ゼロリスクという幻想」に対して冷静な評価を呼びかける書籍を複数出版し、一般市民や専門家に向けた講演や講義も多数実施してきた。
     以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。

    SAICM推進にかかる産官学ステークホルダー
    代表 北野 大 氏(秋草学園短期大学)
    「SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)による化学物質の包括的リスク管理の社会実装」
    ●選考理由:SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)は、国際的な化学物質管理に関するマルチセクター・マルチステークホルダーによるボランタリーな枠組みであり、2006 年に開催された第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)で採択された。SAICM推進活動には多くの産官学ステークホルダーが参画し、省庁においては、化学物質リスクに関連する法令改正やリスク評価の制度導入と運用が進められ、また産業界においては、工業会や各企業において活発な自主管理活動が実施された。SAICM目標の達成度という点では議論があるものの、最終年とされた2021年(当初は2020年であったがコロナ禍により順延)に向けて、リスクにもとづく化学物質管理(リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーション)を日本社会に社会制度として実装することに大きく貢献したものと言える。
     以上より、リスク学の社会実装や普及にかかる顕著な実践的活動であると認められるため、グッドプラクティス賞に相応しいと考える。
    ※本活動は多くの産学官ステークホルダーの参画により行われたものであるため、授与対象者(個人、グループ、団体)を限定的に特定することができない。そこで授与対象者を「SAICM推進にかかる産官学ステークホルダー」としたうえで、北野大氏を代表者として表彰することとした。北野氏は、様々なステークホルダーの化学物質管理への参画を目的に設置された「化学物質と環境円卓会議(2001~2010)」や「化学物質と環境に関する政策対話(2012~)」の取りまとめ役を務め、2021年7月には、日本学術会議安全工学シンポジウム2021において、日本リスク学会企画として15年間のSAICM推進活動を総括するパネルディスカッションを企画するなど、本活動の代表者とするに相応しい貢献をされてきた。また、SAICMの活動と近しい関係性を有する日本リスク学会理事は、表彰委員会規程に基づき、本授与対象者の選考過程や承認過程には加わらなかった。

    以上

    By sraj